東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1086号 判決
仮りに控訴人の従前主張が本件行政処分の無効事由に当らないとしても、その取消事由となることは明白である。そこで控訴人は予備的に右事由に基いて本件行政処分の取消を求める。……(中略)……控訴人としては右の許可処分を知つた当時は、農耕時期も迫つていることでもあり、農事調停によつて穏便に解決しようとして調停の申立をしたものであつて、右調停は昭和三二年七月二三日第四回目を以つて不成立に終つたのであるが、右農事調停の申立並びにその調停継続は訴願を経由しないことについての正当な事由があるときに該るものである。そして同年九月八日に保坂から本件土地返還の訴訟が提起され、その訴状は同月一六日控訴人に送達された。右訴訟が提起された以上、訴願を経由していては著しい損害を生ずるおそれがあるものと考え、訴願を経由せずして昭和三二年一〇月五日本訴を提起するに至つたものであるが、右のような事情にあつては訴願不経由についての正当事由があるものというべきである。
(右に対する判断)
控訴人は予備的請求として本件行政処分の取消を求めるのであるが、本件のような農地法第二〇条第一項の許可に関する処分については、これに不服のある者は農林大臣に訴願のできることは同法第八五条によつて明らかである。然るに控訴人が本件取消の訴の前提として右の訴願の手続をしなかつたことは控訴人の自認するところである。そして控訴人はこの訴願を経由しなかつたことについて前記のような調停、訴訟その他の事情があつたと主張する。しかし控訴人主張の事情はこれを行政事件訴訟特例法第二条但し書にいう、訴願の裁決を経ることにより著しい損害を生ずる虞のあるときその他正当な事由がある場合に該当するものとは到底認めることはできない。従つて控訴人の右予備的請求の訴は、出訴期間の点についての判断をするまでもなく、既に右訴願前置を怠つた点において不適法であつて却下を免れない。
(山下 多田 吉井)